病気の解説

2012.05.01

うつ病について――( その1 )

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最近立て続けにうつ病の患者さんが来院され、何年も薬を服用しているが、どんどん悪くなってきて、色々な他の症状が出てきており、このままでは病気が治らないように思え、何とかしてほしい、という事でした。 近年、ハッピードラッグと呼ばれるパキシルなどの、ニューロ・トランスミッターの関与する部位に働く薬により、うつ病が改善していると言われています。 しかしながら、上記のような患者さんたちが出現してきているのも、事実としてあり、漢方を使っている我々も、このうつ病を正面からとらえて論じる必要があると考え、この文章を書くことにしました。

 うつ病について書かれた文献を調べていて気が付くのは、精神の状態や、気持ちの状態を、身体の因果関係でとらえず、すべて脳神経に、その異常に、帰そうとしています。たとえば、疲れやすさ、睡眠障害、食欲不振などの内臓や免疫、臓器機能に関係することまで、一義的に脳から起るとしている点です。すべて脳が原因なのでしょうか?この考え方は、漢方の教えからも誤っていると私には思えます。

昔から体と脳の関係を述べた内容が、諺として知られています。古代ギリシャの「健全な精神は、健全な肉体に宿る」という考えからすれば、「不健康な精神(うつ病)が、不健康な(病気の)身体に宿る」という考えの方が、正しいと思われます。これは言い換えれば、不健康な肉体を健康なものにすれば、精神まで健康になるという事です。つまり、うつ病の治療は、身体を健康にすることに尽きるといえそうです。
一方、漢方の古典である「黄帝内経」には、さまざまな精神の働きと、内臓が対応していることを教えています。「心身如」という考えがその内容です。これは、古代ギリシャ人たちと共通するところがあります。
ところで、「慢性疲労症候群」に関する論述を別のところで述べてありますが、この病気とうつ病は重なるようです。この「慢性疲労症候群」の患者さんたちは、精神状態はほとんど「うつ病」と同じです。精神の集中力の低下や、不眠、食欲の低下、などがあります。場合によれば、頭痛も出現します。過眠の見られるケースもあります。鬱気分もありました。
「慢性疲労症候群」の患者さんたちは、全員、漢方治療により回復されていますが、うつ病で心療内科でかかっておられた方も、当院での漢方治療により、何例も回復されています。しかしながら、時間がかかるケースが多かったのは、パキシルなどの抗うつ剤を、中止にまで持ってゆくのに時間がかかったからのようです。
うつ病で当院に受診して元気になって、勝手に当院の漢方薬をやめて、別の心療内科にかかってパキシルを減量した患者さんがおられました。パキシルを中止したらとたんに頭痛や不眠が出現して、困り果てて当院に受診したわけです。その患者さんを診察しますと、身体状況は元の黙阿弥の、初めに在ったのと同じ瘀血や、痰飲の表れた状況でした。
このケースで分かることは、パキシルの減量は、漢方薬の助けを借りながら行わないと不可能であることを教えてくれます。パキシルを減らして、完全にゼロにするには、体の氣血の流れを整え、それを妨げる障害を取り除きながら、パキシルの減量を行えばよいことを教えています。
以上の議論で分かることは、うつ病と呼ばれている病気は、本物の脳の病気である統合失調症(分裂病)と異なり、身体の失調であると結論できます。この身体の失調状態は、しかしながら、「慢性疲労症候群」と同じく、漢方薬だけでしか、治らないといえます。上で述べたようにして、身体の失調状態を脱することができれば、それに伴う精神の失調状態も改善して、うつ病から回復するという訳です。
簡単に言えば、漢方薬は内臓に働き、これを整え機能を改善するといえますし、内臓と係る精神状態は、従って、内臓から治せばよいわけで、これが正しい方法であり、正しい治療法であると言えます。逆に言えば、うつ病で、脳神経に作用する薬を服用しているだけでは、いつまでたっても、うつ病からは回復しないと言えます。この事からも、病気は、“正しく”治療しなければならないことが分ります。
 
 
 
参考
うつ病の基本的な症状は以下のようなものです
 
1.強いうつ気分
2.興味や喜びの喪失
3.食欲の障害
4.睡眠の障害
5.精神運動の障害(制止または焦燥)
6.疲れやすさ、気力の減退
7.強い罪責感
8.思考力や集中力の低下
9.死への思い
 
身体症状(仮面うつ病)
うつ病のために、痛みや倦怠感などの身体の不調が現れたりすることがあります。
頭痛腰痛などの症状は、とくによく見られるものですます。重く締めつけられるような頭の痛みはうつ病の人に特徴的といわれ、教科書的には鉢をかぶったような重さだと表現されることがあります。このほかにも、肩こりや体の節々の痛み食欲不振や胃の痛み下痢や便秘などの胃腸症状発汗息苦しさなど、さまざまな症状が現れてきます。
こうした身体症状が存在すると、私たちはつい身体のことを心配するために精神的な面を見逃してしまいがちです。身体症状のために、憂うつな気分が目立たなくなるのです。こうした状態は、抑うつ症状が身体症状の仮面に隠れているという意味で「仮面うつ病」と呼ばれることがあります。
 
 
<著者からのコメント>
うつ病と、仮面うつ病の説明を読むと、これらは同じ病気を、精神面からとらえたものと、身体的側面からとらえたものであるということが分ります。つまり、仮面うつ病は、「慢性疲労症候群」そのものであるし、うつ病の身体的表現であると言えそうです。
 
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  • 21:51  

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コメント

1.投稿:○ake○a A○○の母│2013.06.09  23:55

橋岡先生、お世話になっております。
受験生で腹痛が、慢性化しており、
通院させて頂いております。下痢の症状は、改善傾向では御座いますが、本人は、試験になると息ができなくなってパニック状態になるようです。
本人は、真面目で勉強熱心だったがゆえに、現在の状況が受け入れられない様子で、うつ状態に入ったかとも感じています。
眠れない状態になっているようです。
橋岡先生に現状をお話しして、処方をお願いすればと言っておりますが、本人は、心療内科を希望しています。
どうでしょうか、心療内科を受診した方がよろしいでしょうか?
親としては、先生のところで見て頂くのが良いかと思っております。
一度、私(母)先生と面談させていただいた方がよろしいでしょうか?
其れとも、心療内科を探した方がよろしいでしょうか?
どうか、ご指示を宜しくお願いいたします。

2.投稿:橋岡│2013.08.14  21:51

忙しかったことと、システム上の欠陥のため、ご返事が遅くなってしまい、申し訳ありません。システムは改善しましたので、これからは、迅速に、対応できると思います。
さて、お子さんの件ですが、典型的な心身症で、体の不調が、精神にまで影響を与えるようになった様態と見受けます。これに対しては、2つの方向からの治療が必要です。一つは、肉体の問題であり、もう一つは、精神のコントロールの問題です。体の問題は、お話を伺う限りでは、普通の内科や、心療内科の受診では治らず、漢方治療が必要と考えます。漢方の教えるところでは、長引く腹痛・下痢は陰病になっている、という事だと思います。これに伴い、精神も落ち込むようになったのと、推定します。試験になり、息ができず、パニックになることについては、昔から武道の修行でいうところの、臍下丹田に力を込めるといわれていることなどの訓練や、座禅などで、精神統一する訓練などが、有効でしょう。
そのように考えますと、お子さんのケースは、体の不調と、精神の不調という二つの側面があり、このどちらが先かというのが見えなくなってしまい、困っているという事と、考えます。これに対して、私は、体の問題が先だと考えます。しかしながら、このからだの不調を、現代医学は正しくとらえることに、失敗しています。現在のところでは、漢方だけが、正しくとらえて、直すことができるようです。

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