雑談

2012年03月20日

「羹(あつもの)に懲(こ)りて、膾(なます)を吹く」―テオフィリン製剤が陥められた陰謀―

「羹(あつもの)に懲(こ)りて、膾(なます)を吹く」のお話
  ――テオフィリン製剤が陥められた陰謀――
最近受診された患者さんが、処方された喘息のお薬であるテオドールというお薬を飲みたくないというお話をされました。このお薬は様々な副作用があり、そんなお薬は飲みたくないとのことでした。
この内容のお話を聞いて、私は考え込んでしまいました。確かにこのテオドールというお薬は、昔から使い方が難しいことが知られていたお薬ではあります。有効血中濃度の幅が狭く、少し服用量が多いと、すぐに惡心、嘔吐などの中毒症状が出ます。これに対応するためにテオフィリンの血中濃度を測定することが、保険で認められています。
昔から「毒と薬は紙一重」という諺があるように、使い方を誤ると、薬も重大な副作用が出現してしまうことが知られていました。それに対して、「匙加減」という言葉があるように、医者の力量がそのようなお薬の使い方にこそ、問われるのだという事もよく知られたことです。
生理活性が色々有り、その副作用を抑えて、有用な働きだけを取り出すことを可能にするために、漢方の世界では様々な工夫がなされてきました。処方を作る方法が、「君・臣・佐・使」と呼ばれる薬の配合方法であり、このようにして作られて初めて、様々な成分の複合体である漢方薬が効能を発揮します。それ以外にも、配合禁忌や、相使(そうし)、相殺(そうさい)、相悪(そうお)、相反(そうはん)と言われる、2種類の生薬を使う時の相互作用まで、昔から知られています。このような観点に立って初めて、漢方薬が有効であるのは、そこまで考えてあるからだ、といえます。
薬理作用を発揮することにより、初めて薬と言えるわけですが、時に重大な副作用があるから、テオドールを使って欲しくないということの不条理さは、これでお分かりいただけたと思います。テオドールは漢方薬ではありませんが・・・。
それだけではありません。それでは、テオドールを出さずに、何を処方して喘息の治療に使っているかを見ますと、ほとんどの場合、ステロイドの吸入薬が出されています。ステロイド自身は我々の体の中で働くホルモンですから、使ってすぐに副作用が出ることは考えられません。むしろ長期に使い続けることにより、糖尿病や、ムーン・フェイス(肥満)や、骨粗鬆症が出現します。ある患者さんなどは、閉経後に2年間ステロイドを服用して(プレドニン:10mg)、脊柱の椎体が骨粗鬆症となり、圧迫骨折を起こして神経を圧迫し、ために下半身不随となり、車椅子の生活を余儀なくされました。それだけでなく、神経を圧迫することによる激しい痛みのために、夜も寝られないことになってしまい、この痛みを治してほしいと、当院に受診されたことがあります。骨が脊髄の神経を圧迫しているのですから、手術以外に方法がないのは明らかです。丁寧に漢方治療では治りませんとお話しして、お引き取りいただきました。
喘息に使うステロイドの吸入薬は、吸収されず全身に影響は及ぼさないというのは、薬屋さんが言うペテンです。吸収されなければ、気管の粘膜のアレルギー状態である好酸球性気管支炎には、効果を発揮しません。
これを、ちょっと冷静になって考えますと、口当たりの良い、もっとひどい毒を、テオドールの代わりに、ステロイド吸入薬という形で、投与しているのだということが、お分かりいただけたと考えます。これはまさに、表題に挙げた「羹(あつもの)に懲(こ)りて、膾(なます)を吹く」そのものです。
おそらく、ステロイドの吸入薬の製造会社が、テオフィリン製剤から乗り換えさせるために仕組んだ陰謀のように思えます。
最後に付け加えておきますが、テオフィリン製剤の副作用で挙げられているけいれん発作などは、それを起こした子供さんに、けいれんを起こす別の病気が有り、それを、患者さんの主治医が見落としているように私には思えます。

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