病気の解説

2012年02月27日

子供たちの慢性疲労症候群ーその3

(その2)では、当院での漢方治療症例を取り上げて、比較的短期間で治癒にいたったことを述べた。

 次にここでは、この慢性疲労症候群に罹患し、いろいろな病院を受診するも当院受診まで誤診され続けた症例で、この文章を書くチャンスを与えてくださった方の、病後の感想です。

慢性疲労症候群―――患者の立場から

○本 △ (国際教育コンサルタント)

「先生、このままでは私は人生を生きていくことが出来ません」――今年の六月の私は、橋岡診療所で「慢性疲労症候群」と診断された。全身がだるく、どうにも体の自由がきかない。朝が起きられない。昼過ぎに起きても、体がだるくまたねてしまう。体の中の体温調整機能が働かなくなってしまったのか、体温が三六〜三七・五度の間をいったりきたりしていっこうにおちつかない。足はまるで鉛のくさりでもひきずっているかのように重く、歩行するのが大変だ。いったい、私の体はどうなってしまったのか。

この病気の兆候は四月ぐらいから現れた。オフィスの仲間から「最近元気がない」といわれはじめ、鏡を見ると眼に精気がなくなっているのが自分でもわかる。眼がやたらと疲れるようになり、眼医者では「眼精疲労」と診断された。その後、全身の疲労倦怠感がますます強くなり、アパートの近くの医者に行くと、「それでは血液の流れをよくする薬をあげましょう」と言われ、数日間飲んでみたが何の変化も表れなかった。一日仕事をしてアパートに帰ると、疲労感が全身にドッと出てくる。ベッドに横になると、意識が遠のき二時間ぐらいは起きることが出来ない。くたびれはてて眠りに落ちる、といった感じだった。そうこうしているうちに、三九度の熱が三日ほど続き、薬で高熱は下がったものの微熱が残り、脱力感は依然として抜けなかった。藁をもつかむ気持ちで友人から紹介された鍼・灸の治療院にも通った。某国立病院では、「慢性肝炎」と診断され、近くの医院で毎日注射を十日間ぐらい打ってもらったらよい、と紹介状を書いてくれた。

オフィスから一番近くの医院が、「橋岡診療所」だった。橋岡先生は、「微熱が出るのは肝炎の兆候ではない。慢性疲労症候群ではないか」との所見を持ちながらも、まず紹介状の処方でやってみましょうということになった。幸いオフィスから歩いて三〇秒という近さから、毎日々々注射を打ちに通った。しかし、体のだるさは、一向に軽減されず、わずか十分の距離を歩くのさえも困難になってきた。

「半年ぐらい自宅療養したら」「今まで根をつめて働きすぎたんだよ」「仕事以外のものに喜びを見い出してこなかったでしょう」――周囲の人々からは色々なことを言われた。この病気は、まさに、私自身のこれまでの生き方を百八十度方向転換せよ、との呼びかけのようでもあった。

血液検査の結果には、何の異常もみられなかった。「何の異常もない」ということは、「病気ではない」ということになってしまう。「ここに、西洋医学の限界があるんです」と橋岡先生は語られた。また、「慢性疲労症候群」は、その原因がはっきりしないため、医師の間でも「病気」として広く認知されていない、とも説明してくれた。

「不治の病」「いつ治るかわからない」「病気として認知されていない」――そんな言葉がぐるぐると私の頭の中をまわりだした。落胆する私に、橋岡先生は、意外なことをいわれた。「いま、あなたはとてもいい経験をしているんです」――きょとんとしている私に、先生はつづけられた。「この病気で多くの子ども達が、学校に行けなくなってしまっているんです。もし、あなたが学生だったら、登校拒否をせざるを得ないでしょう。登校拒否児のうち何%かは、この病気にかかっているんです。ところが医者も学校の先生も「慢性疲労症候群」なんていうのは知らない人が多いから、単に気持ちがたるんでいるとか、やる気がないとか、精神的なものとして片づけてしまうのです。でも、これは肉体的な病気なのです。この病気を身をもって経験したということは、同じ病気で学校に行けなくなってしまっている子ども達の気持ちをわかってあげられるということです。だから、この病気にかかったということは、とても意義のあることなのです。」

「なるほど」と思う説明であった。しかし、この病気が治れば、たしかにいい経験であると思えるかも知れないけれども、このまま治らなかったら、いい経験どころか、だんだん寝たきりの生活になってしまう。

「治るんですか」と恐る恐るきいた私の問いに、「この病気は必ず治ります」と橋岡先生は断言された。「ただし、漢方薬でしか治りません。漢方薬とは、自然に生えている薬草を煎じたものです。いわば、野菜の濃縮スープを飲んでいるようなもの、と思って下さい。本来、日々の食事の中で取り入れられるべきものが、現代の生活の中で取り入れられないのであれば、それらを飲んで補ってやる必要があるんです。多くの人々がすでに、漢方薬でこの病気がよくなって元気に生活しています。しかし、何故、この病気が漢方薬でよくなるのかはまだ、解明されていません。」

漢方薬を飲みだして一日で、症状に変化が起こりだしました。足のだるさが少しとれたのです。それから約一ヵ月で、日常の生活をほぼ問題なくおくれるようになった。徐々にではあるが、症状は確実によくなってきた。四ヵ月たった今も、漢方薬は飲みつづけている。まだ時々、足がだるくなることもあるが、以前と同じように仕事が出来るくらい元気になった。

もし、橋岡先生に出会うことなく、あのまま体がだるくて、ただひたすら眠る生活が続いていたら…と考えるとゾッとするものがある。今頃は、職を失って「自宅療養」ということになっていたかも知れない。

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